国土交通省は、「建設現場のオートメーション化」により、生産性1・5倍を目指すi-Construction2・0を強力に推し進めている。ICT建機やレーザー測量など先進の技術を組み合わせて建設現場のデータを取得し、AI(人工知能)などで解析してさまざまな業務の自動化や効率化につなげて生産性向上を図っている。人と、ICTによる自動化技術が協調した新たなステージに建設現場が進もうとする中、i-Construction2・0をけん引する廣瀬昌由国交省技監に建設業の未来について展望していただいた。
国交省では、生産性2割向上を目標にICT施工に象徴されるi-Constructionを16年から進めてきました。特にICT土工は施工が効率化し、安全性も高まるとして評判が良く、大企業だけでなく、多くの中小建設業の皆さまにも取り組んでいただきました。
気候変動に伴う豪雨の頻発化・激甚化や切迫する巨大地震への対応、社会経済活動の活性化、地方創生などのために、今後も必要なインフラ整備は多くあります。さらに埼玉県八潮市で発生した、下水道に起因する道路陥没事故のようなインフラ老朽化問題にも対応するため、国交省ではi-Construction2・0を24年4月に打ち出し、40年までに建設現場の省人化を少なくとも3割、すなわち生産性1・5倍向上を目標に掲げ、「施工」「データ連携」「施工管理」のオートメーション化の三つを柱に取り組みを進めています。25年度も各施策の具体化を進めているところです。
主要な柱である施工のオートメーション化では、ICT施工StageⅡ、遠隔施工、自動施工などを進めています。例えば自動施工は24年度に4件を試行し、その結果を踏まえて安全ルールを改定しました。今年度は山岳トンネルでの試行を予定しています。データ連携や施工管理のオートメーション化でも各施策の社会実装を進め、より多くの方に実感いただけるようにしたいと思います。
ICT施工でも、土工と浚渫工は、エースプロジェクトとしてi-Constructionをけん引してきた施策です。施工者だけでなく、建機メーカーにもご努力いただき、建設現場に広く適用が進んだことから、25年度から直轄工事での原則適用を開始しました。
これまでに多くの施工者にICT施工を経験していただいたことで、働き方改革に貢献するとともに、その延長線上にある遠隔施工や自動施工の実施に向けた下地づくりに貢献したいと思います。その意味でもICT施工の効果は大きく、自治体においても取り組んでいただいているところですが、さらに広がるようメリットを訴求していきたいと思います。
特に遠隔施工は、私のような〝ガンダム世代〟にとっては、ガンダムのコックピットのような操縦席で建機を操作できることは魅力的です。オペレーターにとっては現場の建機の操縦席より、空調の効いた環境で仕事をする方がいいと思う方もおられると思います。移動時間の削減につながり、労働時間の短縮にも繋がります。建設業に入職を希望する人の間口を広げる意味でも効果的です。
現在取り組んでいるICT施工StageⅡは、建機の位置情報や稼働状況、施工履歴などさまざまなデータを集約して生産性を向上させる取り組みで、i-Construction2・0の主要な施策の一つです。例えばダンプトラックや掘削・積み込み機械の位置情報、稼働状況などを可視化することで、ダンプの流れがどこで滞っているのかボトルネックを可視化し、運搬経路や機械の能力を見直し、待ち時間などを改善します。24年度の試行で最も成功した工事では、日当たり施工量を25%向上することができました。
CDE(共通データ環境)の活用では、まず発注者がプロジェクト全体の工程管理を効率化する観点で「プロジェクトCDE」の有識者会議の初会合を6月4日に開催します。測量、設計、施工など各プロセスで生成する最新データを関係者で共有する共通基盤は極めて重要であり、過去からストックしてきたデータも含め、必要な情報を素早く引き出すことができれば、事業全体の効率化やインフラ管理の効率化にもつながると思います。有識者に意見をいただきながら、発注者の仕事を効率化し、ひいては受注者の仕事も効率化するよう検討を進めます。
現場のICT化が進み、機械操作にとどまらずデータの収集、分析、活用を通じて業務改善や生産性向上を図る能力が求められます。従来の土木、建築の技術に加え、これからはデジタル技術に関して十分な理解を持ち、それを適切に活用できるスキルを備えることが必要であり、デジタルリテラシーを向上するための仕組みづくりが重要となります。
また、日進月歩で進化する技術やサービスをキャッチアップすることも大切です。
そして、研修やマニュアルを作成して一人ひとりのデジタルリテラシーを高めるとともに、企業間連携による協調領域の開発などで組織全体のデジタルリテラシー向上も重要です。東京大学大学院i-Constructionシステム学寄付講座では、多くの企業の参画のもと産学官連携による協調領域を研究するなど、非常に意味のある活動を進めていただいています。
ICTにより業務の自動化は進みますが、一つひとつ現場は違うため、完全にオートメーション化された工場とは異なることから、現場に技術者は必要です。建設分野におけるオートメーション化の仕組みを構築する中で、建設技術者とICTがどう協調していくかを考えることも今後のテーマになるのではないでしょうか。
技術革新の速度は、これまでと比較できないぐらい早くなっています。例えばAIの画像認識のような他分野で開発された多くの技術が土木分野に応用されており、この先もどんどん進化するでしょう。一方、工事の内容自体は変わらないため、それらの新技術をどう現場に提供し、融合させるかが重要になります。
特にオートメーション化の推進には、スタートアップ企業など異分野の技術が欠かせません。CSPI-EXPOには、さまざまな領域の最先端技術やサービスが集結するため、それらを連携して新たなイノベーションを生み出すことも期待できます。出展社と来場者が活発に交流し、建設業界全体のレベルアップや技術革新につなげてほしいと思います。
国民生活や経済活動の基盤となるインフラを守り、発展させる役割を担う建設業が生き生きとやりがいを持って働くことで、「給料が良い」「休暇が取れる」「希望が持てる」に「かっこいい」を加えた新4Kを実現することが重要です。CSPI-EXPOを通じ、建設業の未来が明るくなるような技術やサービスにたくさん出会う機会になることを期待します。